次のW杯はカタール、ビジネスチャンス狙う地元起業家たち(CNN.co.jp)

(CNN) サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会の激闘が幕を閉じた。4年後の2022年の開催国はカタール。10年に開催権を獲得した時、アリ・エルダス氏はまだ十代の少年だった。現在25歳のエルダス氏は、自国で開催される「サッカーの祭典」をビジネスの好機として最大限に生かそうと考えている。

エルダス氏は、カタールの首都ドーハに拠点を置く、バーチャルリアリティー(VR=仮想現実)を専門とする新興のハイテク企業アーベックスの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)だ。

アーベックスは、ドーハにあるハリーファ国際スタジアムの360度のVRツアーの提供を手掛ける。ハリーファ国際スタジアムは、22年のW杯で使用される8会場のうち最初に建設されたスタジアムだ。

このVRツアーでは、選手用の更衣室やピッチなど、スタジアム内のあらゆる物を見ることができるという。この試みが成功すれば、カタールの他のW杯会場のVRツアーも提供されることだろう。

変化するカタール

資源豊かなカタールは、史上初の中東でのW杯開催を実現するために惜しみなく資金をつぎ込んできた。

カタール当局によると、昨年は1週間に5億ドルもの資金が使われた時期もあるという。新たにスタジアム、道路、ホテル、地下鉄が建設されるなど、W杯への準備が進むにつれ、カタールはその姿を変えつつある。

またカタールは、W杯を利用して、石油やガスへの依存から脱却し、経済の多角化を図るのに役立つ新たな産業や企業の育成を目指している。その一環として、カタールは自国のより多くの起業家を支援したい考えで、アーベックスもこのチャンスを生かそうと意欲を見せている。

アーベックスは、カタールと中東全域の技術革新の促進を目的としたカタールコンペティション「チャレンジ22」の出身だ。カタールの「伝送と遺産の最高委員会(SC)」主催のこのコンペティションは、W杯への準備に役立つと思われるアイデアに対し、トレーニング、資金、メンタリングを提供する。

アーベックスもこのコンペティションで、開業資金の13万5000ドルを獲得した。数十億ドル規模のW杯や文化的な投資に比べると金額はまだ少ないが、このコンペティションを通じて育った企業が、W杯後に新しい企業としてのレガシー(遺産)を残すことが期待されている。

2022年以降

アーベックスのような若い企業が、W杯後も影響力を維持できるか否かは、実際に大会が終わってみないと分からない。

多くの主要なスポーツイベントが野心的なレガシープランを掲げるが、どれもうまくいかない。04年のオリンピック開催地であるギリシャの首都アテネの老朽化する会場や、14年のW杯のために建設されたが、現在はほとんど満員になることがないブラジルの首都ブラジリアのマネ・ガリンシャ・スタジアムがいい例だ。

カタールの伝送と遺産の最高委員会でレガシープランナーを務めるファトマ・アル・ヌアイミ氏によると、カタールはレガシープログラムが実現せずに終わる危険性を十分認識しているという。

一方でアル・ヌアイミ氏は、起業家精神の育成や長期的な経済の多様化に関する活動の多くは、W杯が「きっかけ」となっているものの、仮にW杯がなかったとしても検討されていた可能性が高いと指摘する。

カタールは過去10年間に、金融、教育、観光、文化、医療の各分野の新たな制度作りに数十億ドルを費やしてきた。ただ、ドバイに拠点を置く新興のデータプラットフォーム、マグニットの調査によると、カタールのスタートアップ・エコシステムは、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなどの近隣諸国のそれと比べ、はるかにアクティビティが少ない。

アラビア人のハイテク専門家・起業家向けハブサイト「アラブネット」のビジネスインテリジェンス部門の記録によると、2013年から2017年までの4年間に投資を受けたハイテク新興企業の数は、UAEが298社、エジプトが169社、レバノンが162社だったのに対し、カタールはわずか3社だった。

それでも、カタール開発銀行は2017年に同行だけで、新興企業との間で11件の投資契約を結んだとしている。またカタール・ビジネス・インキュベーション・センター(QBIC)などの組織・団体もここ数年、W杯関連か否かに関わらず、カタールの民間企業の設立を支援している。

とはいえサウジアラビアやUAEなど近隣4カ国が昨年、カタールがテロ組織を支援し、イランと親密な関係にあるとして断交を表明。カタールへの輸出を禁じている。この状況が続く限り、カタールに拠点を置く企業が事業を拡大し、中東の他の、より大きな市場に進出するのは困難になる可能性もある。

好機をどう生かすか

このようにさまざまな困難はあるが、アーベックスのエルダス氏は依然として意欲的だ。

エルダス氏は、最も重要なのは、22年のW杯をめぐり地元の起業家たちが得ている注目や支援を活用して、アーベックスのような新興企業が新たな職やビジネスチャンスの創出に貢献できることを示すことだと考えている。

エルダス氏によると、小規模の民間企業やスタートアップ企業のコンセプトがカタールで一般に知られるようになったのは、ここ5年のことだという。

世界最大のサッカーの祭典であるW杯をきっかけに、カタールの若い起業家たちの才能や能力に注目が集まれば、それこそがカタールが誇れるレガシーとなる、とエルダス氏は語る。